カーブボール錯視と花映塚

目次

※この記事は『DEHANA Link』収録の同名記事とまったく同一です。

 

要旨
  • カーブボール錯視とは、内部が回転しながら動く物体を周辺視野で捉えると軌道が曲がって見えるものである。
  • 花映塚でカーブボール錯視が生じているとは言い切れないが、可能性はある。
  • 弾幕STG全般で、このような運動による位置ずれ錯視が生じている可能性がある。

 

錯視の学問的位置づけ

先に錯視全般について確認しておく。錯視とは視覚による錯覚である。知覚心理学認知心理学として研究されている。視知覚においては、ものが空間上のどこにあるのかを定める物体定位という重大な問題があり、錯視はそれを解明するヒントを与えてくれる。ここで紹介するカーブボール錯視は運動にともなう錯視であり、特に刺激内部の運動情報による位置ずれ錯視(MIPS, motion-induced position shift)の一種である(竹内, 2012; 久方・村上, 2012)。

 

カーブボール錯視

ここではShapiroら(2010)で取り上げられているカーブボール錯視を紹介する。


垂直に落下するディスクがあり、その内部では縞模様(sinusoidal grating)が水平に、右から左に走っている。このディスクを視野の中心で追いかけると、当然垂直に落ちている様子が見える。しかし視点をディスクの右に固定しておき、周辺視野でこの落下を追うと、ディスクは左に曲がって落下しているように見える。すべてを左右逆にすると、曲がる方向も逆になる。


またディスクの落下中に、右に固定していた視点をいきなりディスクに移すと、曲がっていたディスクが突然まっすぐ落下しているように見える。もちろんディスクから右に視点を移すと、まっすぐ落下しているディスクが突然曲がったように感じられる。


ディスクがどれだけ曲がって見えるかは、ディスクが視野の中心からどれだけ離れているかと内部格子の運動速度に依存する。中心から離れているほど、内部格子が速く動くほど、大きく曲がって見える。

カーブボール錯視

カーブボール錯視が生じる条件

条件をまとめよう。垂直に落下する物体があり、その内部に縞模様の運動刺激がある。内部の縞模様は物体の進行方向に対して垂直に動く。この物体を周辺視野で捉えるときに錯視が生じる。あるいは視野の中心と周辺との間で、視点を移動させたときに生じる。


花映塚ではどのようなタイミングで発生しうるか

花映塚に出てくる弾で、内部がアニメーションしながら落ちてくる弾は、陰陽玉・向日葵・音符弾の3つである。これらはたしかに回転しているが、Shapiroらの実験で確かめられているのは一方向に動く縞模様の運動刺激であり、異なる刺激である。3つの弾は内部の模様が時計回り、または反時計回りに動いている。内部の運動として、時計回りや反時計回りの回転でも錯視が生じるかは分からない。また、陰陽玉や一部の音符弾は、そもそもまっすぐに落下運動しているわけではない。

花映塚に登場する、回転しながら降ってくる弾たち


花映塚では背景もアニメーションしているのでその影響も大きいだろう。Shapiroらの実験では等輝度の背景が用いられている。結局、もう少し純粋な環境を構築して実験しないことには分からない。

 

仮説として、視野の上端で弾を捉えているときは、弾の全体が見えているわけでなく、下半分しか見えていない場合もあるだろう。その場合は半球しか見えないので一方向に流れる縞模様になっており、瞬間的に条件が整っているかもしれない。

 

また、運動知覚について網膜の中心と周辺では特性が異なることも関係してくるだろう。例えば、網膜中心部は微小な運動に対する感度が高い、周辺部は(中心で捉えられる速度よりも)高速の運動まで知覚しうる(福田, 1979)。こうなるとプレイ時の花映塚の解像度が関係してくる可能性が高い。解像度によって、視野の中心と周辺それぞれで捉える弾幕が変わるからだ。


弾幕 STGという特殊な環境

弾幕STGでは、さまざまな模様の大量の弾がさまざまな速度で運動している。この特殊な刺激だらけの環境だからこそ生じる錯視がきっとあるだろう。


錯視はゲームの作り手にとっても有用な知識である。錯視について理解していれば、それを利用してプレイヤーに不思議な体験をさせることができる。あるいは錯視を避けるようにデザインすることが、快適なプレイにつながるかもしれない。

 

この記事は視知覚ついての素人が調べて書いたものです。ここに書かれていることはそのまま真に受けず、必要に応じて自分で調べてください。で、私にも教えてください。

 

参考文献